ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

診断名と障害、問題点の乖離について

医師の処方により理学療法士はリハビリを行う。

 

しかし、診断名にある疾患というものに対して定型的なリハビリを行う理学療法士が治せる療法士かというとそうではないことが多いのではないかと思われる。

 

例えば、変形性膝関節症という診断があったとして、その診断は膝が変形しているよ、ということしか告げていない。書籍やガイドラインには四頭筋の筋トレや、ストレッチの方法などが載っており、ある程度のプロトコルが載っているが、その通り行えばよいかというと、そうではない。

患者さん毎の「個別性」というワードを連想してしまうが、これを言い出すとまた問題がややこしくなる。

 

ここで注目すべきだと思うのは、その患者さんが膝が変形しているか、ではなく何に困っているかを改めて理学療法士と患者さんとで共有し、そここそを評価、介入していくことである。

 

例えば変形性膝関節症なら、膝が痛いのか、力が入らないのか、変形していて見た目が気に食わないのか、短い距離しか歩けないのか、膝が曲がらないのが生活上困るのか

。また、痛いなら膝のどこが痛いのか。お皿の上か、下か、内側か、裏側上のほうか、下のほうか。いつ痛むのか。歩くとき、急に伸ばした時、曲げたとき、ひねったとき。

 

こうした膝だけでも多様な問題がまとまった状態のまま変形性膝関節症という診断でリハビリ室に来ている、という認識を持つことが大切だ。

 

変形性膝関節症の中でも、この人は膝の下の脂肪体の硬さが問題だ、とか、鵞足に負担がかかりすぎる動きをしていてそこが痛んでいる、とか。詳細な先生なら膝蓋下脂肪体硬化なり鵞足炎なり詳細な診断をしてくれるが現状そうでもないことのほうが多い。また、医師も手術や注射、内服調整などほかの業務が多いため、こここそ理学療法士が詳細に評価し対応していく余地のある分野だといえる。

こういうものに対応できるからこそ専門職と言えるわけで。

 

脳出血脳梗塞、なんかもそうで、脳の中でも皮質脊髄路の部分が損傷しているのか、上縦束が損傷してるのか、視放線が損傷しているのか、脳幹が損傷してるのか、こういうところを理学療法士が見ないとその方の障害、および対応が見えてこない。

 

また、もっというと、脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニア、半月板損傷なんかは診断されこそすれ、それがあっても全く問題ないことのほうが多い。腰や足が痛い患者さんがいて、たまたま画像をとってみたら脊柱管が他と比べ狭かった、椎間板に小さなヘルニアがあった、半月板に小さな損傷があった。こうした場合もその診断がついてしまう。

脊柱管が狭窄していたり、小さなヘルニアがあったり、微小な半月板の損傷があったりしても何一つ症状がなく生活している人は多くいる。実際そもそも男性の50~90台の方の半月板の損傷率は56%、そのうち6割は何の症状もなく生活できていたという。*

これはつまり、上記のような状態というのは正常な加齢変化ととらえることも可能、といえないだろうか。もちろん脊柱管自体の狭窄やヘルニアによる神経根の圧迫、半月板の損傷による炎症という場合もある。

こうした場合はもちろん手術や安静が必要だが、これがすべてなのだろうか。

脊柱管の狭窄やヘルニアに伴うと思われがちの足のしびれや痛み、筋力低下に関して、まったく同じ症状が末梢神経障害でも起きることを念頭に置いて評価したほうがいいかもしれない。

単純に姿勢や動き方の問題で神経の上にある筋肉が凝ったり、皮膚の伸張性が低下してそれが神経を圧迫し始めた場合でも同じような症状が出、たまたまそのタイミングで画像に狭窄やヘルニアが出たということもありうるという話だ。

こうした場合に手術をしても状態は大きく変わらない。実際、手術をしても状態が変わらない、もしくは手術後の痛みが加わってもっと動けなくなる、ということもあり得る。

もちろんDrも精査をしたあとに手術を決めることがほとんどだが、その「精査」の過程にリハビリが組み込まれていることも多い。

筋肉の凝りの塊、つまり筋硬結や皮膚の伸張性低下は簡単なマッサージで軽減できる。先にこれで変化があるかなどをしっかり確認し、必要のない手術などを避けられないかしっかり確認しておくことは大事ではないだろうか。

 

このために病態の知識、評価・徒手的治療のバリエーションを増やさなくてはならない。

昔の職場の同期が新人のころ、「学生でもないのになんで勉強するの」と言っていたが、とんでもない。

学校を卒業しても日々新しい知見が公開されたり、そもそも学校で習ったことが古い知識であることも多く、卒後こそ学ばなくてはいけないと思う。