ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

松葉杖指導

完全免荷の松葉杖を練習しようとしても、転倒リスク高く、どのように指導すればいいかわからない、という声を後輩から聞いた。思い返せば自分も最初は基本的な使い方以外の指導方法が分からず苦労したのを思い出した。

 

あまり下手な方は平行棒でまず練習してから、という意見も多いが平行棒で練習していれば松葉杖ができるようになるか、という疑問は残ると思う。

 

平行棒と松葉杖の間の指導について、思うことを書いていきたい。

 

松葉杖で下手、と一口で言ってもその要因はたくさんある。バリエーションも多いし、いくつもの要因が重なっていることも多い。

闇雲に集成するより、優先的に対応すべきもの順、というものもあるはずだ。

 

まず第一には、免荷で立ち座り、ベッドや車椅子への乗り移り(移乗)が安定しているか、というところ。

免荷の場合の立ち座りや立った状態(立位)のバランスの取り方として、良い方(健側)に体重をかけておく、ということがまず大切だ。

悪い方(患側)は、そもそもつけないから万一、転ぶ場合も考え、若干(6:4程度)健側に体重をかけておくことが安全と思われる。

これは、平行棒や松葉杖に体重をかけるときにもそのまま当てはまる。

健側に体重をかけた立ち座りのポイントは、健側の手を使って座面をおして、やや健側に屈みながら立ち座りをすることだ。体を起こしたあと、バランスを崩しても健側の手で何処かにつかまれば元の姿勢にもどれる。松葉杖などを持つ場合でも、患側の手で松葉杖を持っていてもこの方法は可能だ。

移乗にもこれは応用が効き、健側の手で座面を押して健側に屈んだままお尻だけ向きを変える。向きを変えつつ健側の手で行き先につかまっておけば到着しても安全に座ることができる。まずはここまでを練習していただく。

 

次に、松葉杖歩行、といきたいところだが、ここからスムーズに進まないこともある。

もちろん松葉杖の高さは基準に従い合わせる必要があるが、それでも上手く行かない場合がある。

 

座面からお尻が離れた(離殿)後の問題は大きく分けて2つ。体が伸展したあとの立位バランスの問題、平行棒や松葉杖を手で押して体を浮かせて(push up)前進する際の推進力の問題である。

 

体が伸展したあとの立位バランスの問題から述べていく。歩く際の立位バランスとしては、じっと立ったまま片足で立ち続ける、というより片足で立ったまま手を後ろから前に移動させ平行棒をつかむ、松葉杖を移動させる、というより場面が多いハズだ。

ということは、片足立ちを長時間できるようにする、というよりは片足立ちで松葉杖や歩行器を前後に移動させる、という練習が必要と思われる。ここで、猫背となり前に突っ込む、腰を沿ってしまい後ろに尻もちをつきそうになる、足首がぐらつき横に倒れそうになるというふらつきが出ることがある。

 

やればやるほど慣れるため、近くに介助者がついたり、壁際やイス・ベッドの前など安全なところでどんどん行うといい。

ちなみに松葉杖で歩いてて、座らずにちょっと休憩したい場合は、長時間の片足立ちが必要と考える人もいるかもしれない。しかし、そういう場合は壁際に行って、壁にもたれていればいいのだ。私は松葉杖歩行で疲れた場合はこの休憩方法を推奨している。

 

push upに伴う体の前進が下手な方もいる。厄介なのがこのパターンだ。これに関しては松葉杖の付き方の問題とも言えるので、平行棒や歩行器で練習しても松葉杖歩行の安定性向上に繋がらない原因となる。

練習としては、松葉杖を体の少し前に付き、体を1秒程度浮かす練習が必要だ。ここで大切なのが、真っ直ぐ持ち手を下に押した時に、松葉杖の後端でしっかり地面を押せることだ。この角度で押せないと、脇から松葉杖がすっぽ抜けてバランスを崩したり、体が半端にしか浮かずに足が引っかかるなどの不安定性に繋がる。

コツとしては健側の松葉杖の方を意識して、患側は軽い補助、くらいにしておくと松葉杖が地面を捉えたか、失敗しているかがわかりやすい。

 

この2点をクリアすれば松葉杖で平地を歩行する程度なら問題なくなることが多いと思われる。あとは、歩行距離が伸びると徐々に体勢が崩れるという耐久性の問題が出ることがあるため、これは疲労を本人にしっかり意識させつつ適宜休憩を取らせて回復させ、ムリをさせない。そして日々の歩行で体力をつけるという対応が必要だ。

 

最後に、松葉杖での階段だが、平地歩行の問題をクレアしていても、階段ができないという方も多い。これは、何が問題かというと、push upの力が不足している、健側だけでしゃがんだ状態でバランスが取れない、という2点に集約される。

 

push upの力は平地と比べ、段を上り下りする、という分だけ余計に必要になる。上りはイメージしやすいだろうが、下りも転落したら偉いことなので、着地を慎重にしたいという心理が働くため、平地よりゆっくり体を浮かせる必要がある。ゆっくり浮かせる必要がある、ということは滞空時間が平地歩行より長いため、長い時間push upをし続ける必要がある。こういった意味でpush upの力が平地歩行より必要と述べている。

この練習は、手すりなども使用して手を離さずに上り下りをすることで手の力を鍛えていくという対応をする。

 

最後に、それでも階段はバランスを崩しやすいが、ここで出てくるのが、健側片足でのしゃがみこみ位でのバランスだ。段を上り下りするということは、どこかで体も高さ調整をする必要がある。松葉杖は曲がらないため、膝で調整する。膝が伸びっぱなしでは上りで引っかかったり、下りに勢いがつきすぎ転落したりと危険である。

 

上りはpush upで体が一段上がった直後はしゃがんでいる。ここからしゃがみこみから膝を伸ばしつつ重心を前に移動させて松葉杖を体と同じ位置に持ってくる。ということは、上がった直後はしゃがみこみ位でやや重心が後方にあるのだ。

また、下りは松葉杖を下段に下ろしてからpush upで体を下ろしていく。このとき、膝が伸びっぱなしだとpush upにおいてジャンプしなくてはならなくなる。松葉杖を下ろすタイミングで、しゃがんだ状態であった方が、下段の瞬間の重心の上下動が少なくpush up、着地とも安定して可能なことが多い。

これらを総じて考えられるのは、片足でしゃがんだ状態での体重移動やpush upが安定させれば階段の安定性向上に寄与するということではないだろうか。平地歩行後に、いきなり階段の練習をせず、こうしたところを評価、確認し、練習してみようというワンクッションおくというのはどうだろう。

 

松葉杖がてきないからと、平行棒で歩かせる、というのは一見理にかなっているようで、もちろんそれも必要だとは思うが、それ以外にも多くのスモールステップがあるように私は思う。

 

患者さん毎に様々特徴はあるが、こうしたことも一つ、頭に入れて指導や評価がより役立つものとなれば幸いだ。