ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法 〜1〜 病態、手術について

理学療法士が実習や新卒でオーソドックスな疾患として担当することの多い大腿骨近位部骨折の手術後の患者さん。

 

養成校では解剖や運動学などを学び、疾患については整形外科、神経内科など科毎に総論を学ぶのみで各論は実習地の教育や自己研鑽に任せられているのが現状だと思う。

 

このブログでは各論的に本当に基本的なことと思われる私の意見を書いていきたい。今回は大腿骨近位部骨折の手術後急性期、なにから始めるかについて。

 

まず、そもそも90代など超高齢とされる方であっても、大腿骨頸部や転子部の骨折で適応であれば医療機関では手術を推奨する。しかし、超高齢の方には足首や肩などの関節や骨盤では、手術の身体負荷や手術後の不活動などを理由に保存療法を奨めることもある。これを考えると、なぜ超高齢であろうと手術を検討するのだろうか?

 

これは、大腿骨を保存とすると、どんなに気をつけても骨片がどこかに飛んでいってしまう(転位)リスクが高く、転位してしまうといつまでも骨もくっつかない状態が続きやすいためと思われる。これを避けるためには股関節を動かさず、ほぼ寝たきりのまま大腿骨がくっつく(癒合する)12週間を過ごすことになる。

 

超高齢の方が12週間寝たままで過ごすと筋力低下もするし、心肺機能が低下し肺炎などのリスクもあがるし、なにより認知機能が低下し骨癒合してももう離床や日常生活を望めない状態となる可能性が高い。

 

そのため、超高齢でも大腿骨近位部骨折の場合、手術を行う。大腿骨近位部骨折に対する手術の方法は大きく分けて2つある。

一つは、もう骨折がひどすぎて、大腿骨頭に血液供給が望めないため骨頭から人工のものに変えてしまう、人工骨頭置換術。もう一つはピンや杭で折れた骨片と骨片を貫いて動かないよう固定する観血的整復固定術。

どちらを行っても、折れた骨片が股関節運動によって転位しない。さらに、固定術の場合は、荷重によって転位しないばかりか、骨片と骨片が触れ合い、骨癒合を促進してくれる。

これなら、骨折自体の悪化は心配せず動けるため、術後すぐから起こしていける、というわけだ。最近では骨折翌日には手術ができるわけで、寝たきり期間をほぼ作らずに、退院に向け動き出せる。これなら、保存療法よりはるかに、元の生活に戻れる可能性が高いということがイメージしやすいのではないか。歩行にせよ、車椅子にせよ、起きる必要はあるわけで、超高齢でも手術をした方がいい、というのはこうした観点から言われているというわけだ。

 

手術後に、早期から動ける、と言っても注意すべきことも多く、これに理学療法士は多く関わっていける。まずは、人工骨頭置換術の場合にイメージされるのが脱臼だ。

人工骨頭は前外則から骨頭を入れる場合と後外側から骨頭を入れる場合とある。術後早期は軟部組織が修復されていないため、どちらの方法にしても、入れた角度に骨頭が向いてしまうと、骨頭が飛び出てきてしまい脱臼する。3ヶ月程度は軟部組織が完全には修復されていないので入れた角度に骨頭が向く様な動きを控えなくてはいけない。

前外側アプローチであれば、後内側に大腿が行ってしまうと抜けてしまうため、伸展・内転・外旋の複合動作を避ける必要がある。後外側アプローチであれば、前内側に大腿が行ってしまうと抜ける。このため、屈曲・内転・内旋の複合動作を避ける。

ここまで読んで気がついたかもしれないが、とにかく術後早期は、内転方向には、あまり大腿を持って行かない方が安全だ。このため、股の間に枕を挟むなどの対応をしている病院も多い。

 

一方、観血的整復固定術においては脱臼こそないが、ピンや固定具が手術後より深く食い込んでしまうこと(cut out)や、手術後の位置から徐々に浅く抜け落ちてきてしまうこと(back out)など、固定具の位置異常の起こるリスクがある。

毎週レントゲンを撮る病院が多いと思われるため、こうした固定具の位置も気にして見ておくと良いかもしれない。

万一、位置異常に気がついたらすぐにドクターに相談すべきだろう。

 

また、術式に関わらず、転子部より遠位の小転子が骨折している場合も注意が必要だ。

小転子は荷重を受ける部位ではないため、大転子や頚部が固定もしくは置換される場合でも、保存的に対応される。

そのため、小転子に付着する腸腰筋の出力は骨癒合が進むまで控えた方がいいだろう。

腸腰筋を早期から収縮させすぎると、小転子が転位してしまい、腸腰筋の出力が困難となってしまうことがある。

小転子に骨折が及んだ場合も、早期からのSLRは控えたり、NSにも情報共有して股関節屈曲に関しては早期は介助対応とするなどの工夫も検討が必要かもしれない。

これも、ドクターと相談すべき内容だろう。

 

手術後の注意点を述べてきたが、術後の心身の廃用もそれに当てはまる。こここそ理学療法士をはじめとするリハビリの真価を発揮できるポイントだろう。

 

ここから、具体的なリハビリを述べていこうと思うが、長くなるため分割しようと思う。次回も是非読んでいただきたい。