ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法について~6〜 患側への荷重方法、歩行介助

長かったこの記事も、とうとう患側を使ってどう歩行を獲得していただくか、どう指導するか、いう話に入る。

 

大腿骨近位部骨折手術後の患者さんが歩けない理由は、おおむね患側に体重をかけられないことだろう。

中には前面の滑走障害から振り出しに痛みのある例もいるが、それは滑走操作をしつつ、痛いうちは股関節でなく、骨盤から挙上させればとりあえず振り出しはできる例が大半だ。

 

患側股関節に荷重した場合、痛みとともに股関節が屈曲、内転方向に崩れてしまい、健側を床から離せず、一歩目から進めないため歩行が成り立たないことが多い。

この崩れから来る破行への対処について、今回は記載していきたい。

これは、健側に荷重していれば股関節が軽度屈曲していようが、外転していようが、伸展していようがなんともない。

しかし、荷重して不安定になった股関節を筋活動を通じて支えようと思うと、後外側の筋や軟部組織が損傷しており、痛みもあり支えられず崩れてしまう、というわけだ。

 

ということは、後外側の筋や軟部組織の支持性をセラピストが補う様に支えてあげれば、それらは痛みを発さずに立位保持、歩行が可能になるのではないか。

 

臨床的に、前方か、側方か、後方か、どこからでもいいが、セラピストの手掌を開き、患者さんの腸骨稜、大転子、坐骨結節間をホールドして、そのまま前内側に手を押し付けておく。こうすると股関節の崩れを防止できることが多い。

注意点として、骨盤‐大腿骨頭間を安定化させたいがためにこの作業を行っているが、反対側から軽く抑えがないと患者さんの体を押してしまうことになるので反対側の上前腸骨棘付近に固定のため手を回しておいたほうがいいだろう。

要は後外側から骨頭を支える、というのは中殿筋の代わりをセラピストの手掌で行っているというわけだ。これは、市販の股関節サポーターなどでもある程度代用が効く患者さんの痛みに合わせサポートの強さを調整できる、という点が手掌のメリットだが、サポーターはご自身で装着可能、外的デバイスに頼れるため中殿筋のサポートをしたまま他へもアプローチ可能という点がサポーターのメリットだ。

話が逸れてしまったが、こうした方法で痛みが起こらず、崩れていない立位を経験してもらい、このまま少しずつセラピストの介助を緩めていく。もちろん崩れそうになったらすぐに介助を再会する。そうして自力で骨頭を後方から支えられるように、後方支持組織による股関節の安定を学習させていく。

徐々に静的立位だけでなく、健側の踵を上げてみたり、振り向き動作を行ってみたりと患側荷重をしたままさらにその中で重心を動かす、荷重を増やすなどの課題を取り入れ、動的なバランスや、片脚立位など荷重量を増やした状態でのバランスなども取れるようにしていく。

 

この場合の大きな問題として、後外側の支持機構がまだ破綻破綻しているため、骨頭の安定化以外に、骨盤の水平を保てずに結果として股関節が崩れてしまう、ということがある。

後外側支持機構の中心的役割をなす中殿筋は、以前の記事でも書いたが腸骨稜から大転子後方に付着する。つまり、骨盤を下からさらに下に引っ張っている。これがたるんでしまうと、骨盤は、運動学用語でいうところの挙上してしまい、反対側が下に落ち込んだ形となる。

これを制御するために中殿筋のトレーニングが必要となるが、中殿筋のトレーニングと聞いて、側臥位で行う大腿の外転をイメージする方もいるかもしれない。

しかし、これは腸骨稜側から大腿を引っ張るという形での起始→停止方向への収縮だ。もちろん筋腹へ負荷をかけて筋の総量を増加させる、という意味では有用かもしれないが、立位で骨盤を水平に保つという筋の使い方を練習する上ではあまり役に立たないと私は考える。

この場合に行うべきトレーニングは、5cm程度の段差に患側下肢を乗せて、股・膝の伸展に合わせて骨盤までしっかりと下制させていく練習だ。股・膝の伸展に関してはなんなら介助したっていい。大切なのは、患者さんに骨盤をしっかり下制させる感覚を掴ませることだ。

セラピストとしては股も膝も伸展したところで、そこから反対側の骨盤を挙上するよう口頭で指示してそれを手伝う。

反対側の骨盤が挙上したところで、今、患側の骨盤が下がってお尻に力が入っているのがわかりますか?とはっきり聞いてからそこを意識させるように練習する。

 

これを10回程度反復してから次に移る。歩行中に患側骨盤が下制する必要があるのは、立脚最後の蹴り出しまでずっと、だ。

蹴り出し直前ででも骨盤が挙上してしまうともうそのタイミングで跛行が起こる。

そのため、ただ股関節中間位で骨盤下制の練習を行うのみでなく、股関節伸展・蹴り出しに合わせて骨盤下制を行う練習も行うべきだろう。

レーニングとしては、先ほどの段差での伸展練習から派生させればよい。

まず、環境設定として、患側足元には5cm程度の台が入っている。健側足元の前方に5~10cm程度の台を用意する。

先ほどの練習で中間位であれば骨盤下制ができるようになっていることが確認できたら、そのまま患側骨盤を下制させたまま、前の台に健側を乗せてもらう。これだけで患側股関節が伸展しながら骨盤を下制捺せ続けるという練習ができる。

さらに、反復のために足を下ろす際も骨盤下制を維持するようにすれば、遠心性収縮の練習にもなるためオススメだ。

注意点として、股関節伸展すべきタイミングで骨盤が後退し、バックニー気味に健側の股関節屈曲で代償する方がいる。股関節伸展もしっかり意識させる必要がある。難しければ、最初はそこも含めて介助してしまってもいいだろう。

また、膝折れからの転倒など起こしてしまってはもう最悪だ。ピックアップ式の歩行器や平行棒の中か、前方からセラピストが膝などでしっかりと膝折れを予防した環境で行うことを推奨する。

 

このステップを介助なしでできるようになれば、今度は段差をなくした状態でできるか確認し、歩行へ繋げていく。

段差を置いたのは課題を患者さんにとって分かりやすくする、という意味で難易度を下げている。

平地をステップする方が段差をステップするより楽と考えるかもしれないが、平地のステップというのは動作方略が数多くあり、どこに意識すればいいかわかりにくい。

先に段差を使ってわかりやすい課題で練習してから平地の練習をするほうが体感的には患者さんの理解を得やすい。

 

まずは平行棒、歩行器で歩行していただき、同時にこの練習を片手支持、手放しと進めていき、杖や独歩を獲得していく、という寸法だ。

 

もちろんほかにもバランス不良や痛みが出ることもあるだろう。

その辺の課題はFBSやTUGなどの検査バッテリーを使い、適宜評価して潰していく必要がある。かただ、このトレンデレンブルグと伸展不足以外の課題、というのは、大方膝や腰部などの隣接関節の問題が多いのではないかと思う。

ここらへんの課題への対処をしつつ、しゃがみ込みなどを獲得できればもうすっかりご自宅でも生活できるように思う。

しゃがみ込みに関しては、前までの屈曲可動域に加え、しゃがんだ状態での下肢筋出力向上が必要なため、課題得意的な練習が必要だろう。

 

今回のテーマに関しては、このくらいで筆を置こうと思う。長いこのテーマを読んでいただき、感謝の念は尽きない。

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