ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

脳卒中重度片麻痺への長下肢装具療法 その2 実際の介助歩行のポイント

長下肢装具を用いた歩行介助。

 

麻痺が重く、ご自分では足を上げることも、膝で体重を支えることも、足首で地面を蹴ったり、引っかからないよう足首を上げたりすることも難しい患者さんを、介助し歩行練習していく方法について。

 

実際に行う場合の私なりの注意点の前に、第3版脳卒中理学療法理論と技術においてどのように書いてあるかを軽く紹介したい。

 

"歩行練習は2動作前型そしてある程度のスピードをもって行うことが重要である。(p314)

 

病期を問わず、長下肢装具を用いた歩行練習では、一定の速さをもつリズミカルな下肢の振り出しを妨害しないこと、視野を遮らないことなどを目的に、原則的に後方介助で行う。(p336)

 

脳卒中患者では股関節周囲筋の低緊張により振り出しが股関節外旋や内転に、しかもバラバラになることが多い。

〜略〜

特に、麻痺側下肢が立脚期に入る踵接地が不安定であると、COPは滑らかに前方に移動せずに、ロッカー機能の連鎖は破綻してしまう。

大腿カフ部分にループを取り付け、麻痺側振り出しを制御するように理学療法士が操作することで、これらの問題を解決する。

〜略〜

踵接地する場所が適当であるかを確認するために麻痺側足を理学療法士が覗きこもうとすると、理学療法士自身の同側骨盤を後方に引いてしまうことが多い。その動きは患者の骨盤に同様の回旋を引き起こし、その結果、外旋歩行を呈することになる。

この外旋歩行を防ぐために、理学療法士は正面に置いた鏡を見て振り出し状況をみながら介助による歩行練習を行う。前額面ではその他に、

・麻痺側を外転して振り出そうとしていないか

・非麻痺側を外転して振り出そうとしていないか

理学療法士が体重を麻痺側にかけたいがために、過剰に麻痺側にshiftしていないか

・左右同じような前型の振り出しになっているか

・麻痺側体幹が十分伸展しているか

・患者の表情はどうか

などを観察し、適宜修正を加える。矢状面のアライメントも過度に後方にもたれていたり、前のめりになっていないかなど、鏡や他者を通してチェックする機会をつくる。(p337)"

となっている。

 

これらをまとめると、

・後方介助でリズミカルに行う

・振り出しが外転、外旋、内転に偏らず、踵接地が一定とするよう介助する

・麻痺側に過剰に荷重させないように気をつける

体幹を伸展させ、過度にもたれたり、前のめりとしないよう介助する

・セラピストは覗き込まず、確認は他者や鏡を使用する。

 

これをクリアするためにどうするか。これがやってみると結構難しい。

後方介助で覗き込まないことはまず徹底したほうがいいだろう。

まず、良くあるのが、前進するため前方に突っかかって倒れるのが怖いがために過剰に後ろに引っ張ってしまっている、という状況。

麻痺側は長下肢装具を持って振り出しを介助しているため、必然的に胸に回した非麻痺側体幹を支える手が強すぎる、という問題だ。

怖いのはわかるが、臨床的体感として、患者さんが後ろから引っ張られている、という様に感じるほど引っ張っている時はやりすぎだ。

少し緩めて、私の場合は気持ち前屈み気味にすると丁度いいことが多い。

また、誰かに前方から非麻痺側上肢や肩口を持ってもらって前に倒れない様な環境を作ってしまうと後ろに引き込みすぎない感じが掴みやすい。必然的に2人介助となってしまうが、教科書的にも他者の確認は推奨されているし、点滴がある場合などの介助が困難な場合は2人介助は推奨されている。慣れないうちはそれでも良いのではないか。それで行ううちに自分の場合のちょうど良い加減が掴めて来るのではないかと思う。

 

また、振り出しがバラバラとなってしまう、という問題に関してだが、教科書的にはループを通すことが推奨されているが、ループの弾力や、若干のたるみで、不器用な私にはわずかな内外旋屋、外転をコントロールするのは難しかった。また、ループを大腿カフという装具前面につけ、そこから介助するのだと、振り出しの強さの加減を手で持ち上げてコントロールする形となりこれまた力加減がむずかしい。

結局、少し手は痛いが、私は大腿半月という装具の1番上の金具を後ろから持って、手首のスナップと、押し込みで後ろから直接振り出しを介助している。これだと、後ろからまっすぐ前に押すだけ、かつ、内外旋が起こらないよう橈尺屈を起こさないようホールドするという簡単な動きで振り出しをコントロールできる。加えて、これも大きなポイントだが、立脚中期以降の股関節伸展も手首の付け根で患者さんの臀部を前に押すことでサポートできるという強みがある。

 

そして、ロックした装具歩行において1番大切なポイントは、やはり麻痺側に過剰に荷重させないことだろう。これは、もう介助者の意識としては、非麻痺側を中心とした立位の安定から図っている、くらいのつもりで非麻痺側に乗せておくことが大切かと思う。そもそも、片麻痺から回復していく過程においても、麻痺側下肢随意性が出てきてもその出力は非麻痺側と比べればほぼ全ての例で乏しいのではないか。とすると、最初からこちらの技術で麻痺側、非麻痺側均等に荷重させよう、ということに無理があるのではないか。

介助しているセラピストも、重心を非麻痺側に置き、麻痺側立脚は、足部内側を中心とした荷重で全力で麻痺側へシフトしない様にする。いずれロックを外してご自身で歩いていただくといっても最初は杖などを使うことも多い。ならばその時でも麻痺側の荷重は麻痺側下肢が全体重を受け止めるのではなく、麻痺側下肢と、杖で荷重を分散しているのだ。介助歩行の段階で、介助者の上肢に前額面上で多少もたれていても、リズミカルで、体幹伸展位で、左右の股関節が屈曲-伸展の反復があり、振り出しも一定であればいいのではないか。

また、麻痺側に荷重が乗りすぎていると、単純に振り出しが困難となることが多い。患者さんは麻痺側股関節、体幹の機能も低下しているため、左右への体重移動の際、特に麻痺側から非麻痺側へ体重を移すことが困難なことが多い。この課題は難しいため、難易度を下げる、という意味でも麻痺側には、非麻痺側が振り出しが可能な程度にわずかに乗るだけで、基本は非麻痺側に重心はずっとおいておく、くらいのつもりで介助した方が安定する。

 

そうして非麻痺側での歩行がスムーズになってきたら、手すりなどを非麻痺側で持ってもらい、非麻痺側体幹を介助していた手を徐々に緩めていきご自身と周辺環境のみでバランスを取れるようにしていただく、というようにするとスムーズに介助歩行、から歩行の軽介助、くらいに介助量が下がっていく。また、同時に膝の随意性を高めていく必要があるが、ロックを外す話は次回に持ち越そうと思う。

 

まとめると、

・後方で引き込みすぎないよう介助する

・振り出しは大腿半月直接調整する

・重心は常に非麻痺側に載せておく意識で、セラピストの肘や上腕にもたれさせる、くらいに介助してしまう。

という方法で初期のロックしたままの歩行介助を行っている。

具体的やり方を記載した文献、というものも多くあるが、実際には難しい完璧な歩行を行わせているような誤解を招くものもある。

あくまで、重度麻痺の患者さんのバランスを良くし、自力歩行へ繋げるための一歩、という意識であればそこまで構えずにできるのではないかと思う。

これがスムーズになったら、次もやること山積みであるため、これだけで終わらないことが大切だ。次回もぜひ読んで欲しい