ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法について 〜3〜 骨の動きから見た屈曲制限

ここからは、患側機能の向上の話に移る。

 

患側股関節の機能低下で主な問題となるのは、以下の2点だろう。

1点目は、痛みや筋出力低下で、可動域の低下を来して姿勢変換が困難となること。

2点目は同様の理由で、立位をはじめとした荷重困難、支持性が低下してしまうことだろう。

 

可動域の低下に関してから話を始める。

 

日常生活において、股関節では、屈曲、伸展、外旋、軽度の内転の可動域が寝起き、しゃがみこみ、歩行には必要になる。

 

手術後早期において、どの方向の可動域から改善させるか、という優先順位だが、私はまず屈曲が一番大切だと思う。

 

もちろん全ての方向に対し、可動域練習は行う必要があるが、屈曲は徒手的に即時効果を出しやすく、わかりやすく生活動作の介助量の軽減に繋がる。

 

ここでは、よくある屈曲の可動域制限の改善方法について述べていく。

ここで述べたい可動域の制限因子は大きく分けて3つある。

1つ目は、股関節の骨のレベルでの動き方の問題。

 

2つ目は骨頭周辺の筋肉の癒着や挟み込みの深層の問題。

 

3つ目は手術の傷(創)の皮膚やその下の筋膜が硬かったり、癒着していたり、という表層の問題。

 

今回は、1つ目の骨のレベルでの動き方の問題を説明する。骨のレベルで説明したいことは二つ。一つ目は骨盤の可動性の話。二つ目は大腿骨には頸部があるため、見かけ上の屈曲と頸部軸に合わせた屈曲は異なる、という話だ。

 

骨盤の可動性の話から。股関節屈曲は、80度程度以上は骨盤の後傾、腰椎の屈曲との複合動作となる。大腿後面のハムストリングスや大殿筋、骨盤-胸郭間を後面で走る腰方形筋や脊柱起立筋、広背筋等の過緊張があると骨盤が後傾できずに大腿骨の動きとして限界を迎える。

ではどうするか。一つ一つ筋をストレッチしてみるだけでは過緊張は改善しないことが多い。それぞれの筋肉を横断マッサージや把持して左右へスライドさせる、などして筋を弛ませる操作をすると骨盤の可動性が高まり、結果として股関節屈曲の可動域が広がることがある。腰背部、殿部、仙腸関節の境目、大腿後面などを一つ一つほぐしていく感じだ。

また、動かし方として、骨盤の後傾は両側の股関節を屈曲した場合、片側のみのときと比べ容易に後傾しやすくなる。これは、骨盤が左右で連結していることを考えればイメージしやすいだろう。股関節屈曲が90度付近で疼痛のため止まってしまっている場合、一度試しに両側同時に屈曲させてみる、というのも一つの評価手段として有用と私は考えている。骨盤の可動性の問題の場合、両側同時に屈曲させて、可動域が増大したところで、ゆっくり健側をまた屈曲0度に戻しても患側股関節屈曲の可動域は増大したままであろう。

 

また、大腿骨の頸部によって、体表からみた大腿の動きと、実際の骨のレベルで見た大腿骨の動きにはわずかに差異があることも理解すべきだろう。

大腿の中心にある大腿骨の骨幹部の動きはおおむね体表からみた大腿の動きと一致する。しかし、骨頭の動きは、頸部が大腿骨転子部に対して前かつ内方へ伸びているため、見た目より内側かつ前方を動いている。

もし、体表の大腿を見たまままっすぐ屈曲させると骨頭は60度付近で臼蓋と触れ合い抵抗が生じる。健常者であれば、そのまま押し込んでいっても特に疼痛はないが、手術後で多くの筋や軟部組織に炎症が生じている患者さんであれば、この抵抗で後方や外側の組織へ負担が伝わり疼痛を惹起することもある。

体表に対しまっすぐ屈曲するのでなく、最初は大腿骨の頸部軸に合わせた方向へ屈曲すると、この抵抗がなくより深い角度まで屈曲できる。

頚部軸に沿った屈曲とは股関節を軽度外転・外旋させた状態での屈曲だ。徒手的には、慣れるまでは大転子下端と大腿骨頭を前方から把持するように触れながら屈曲すると、頸部軸がイメージしやすい。

 

今回は、股関節屈曲可動域制限について、骨のレベルでの動き方の問題とその対処方法について説明した。次回は、骨頭周辺の筋肉の癒着や挟み込みの問題による屈曲可動域制限や鼠径部痛の原因とその対処を説明していきたい。