ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

脳卒中重度片麻痺への長下肢装具療法 その1 介助歩行の理論的背景

脳卒中重度片麻痺患者様への、長下肢装具をもちいた歩行介助というものがある。

 

これは、どんなに麻痺で力が入らなくても、歩行練習を遂行できるというめちゃくちゃ強力なものだ。

 

適応としては、pusherがない、心臓を始めとする全身状態が落ち着いている、患者さんの拒否がないといったことくらいだろうか。

厳密にはpusherではやり方を変えるだけで、心臓系の問題が遷延化した場合には全身状態を見つつトライしたりもするが、ここでは置いておく。

 

基本的な概念は、以前記事にしたhebbの法則と、歩行の自動制御機構(central pattern generator:CPG)の2つがベースとなっている。

 

おさらいがてら、hebbの法則は、「運動意図と運動タイミングが一致すると、その運動の神経路が強化される」「神経路は行ったことしか学習しないため、代償運動の反復は代償運動を強化するだけに終わる。代償を避けた運動の反復では、代償からの脱却を図れる」というもの。

 

CPGは、簡単に言ってしまうと、脳や上位脊髄からの司令と関係なしに、腰髄に存在する反射中枢が刺激されると自動的に歩行が可能となる、というシステムのことだ。

このシステムは、「ある程度以上(体重の30%以上と言われている)の荷重が足にかけられた状態で」、「介助ででも股関節の屈曲⇔伸展の反復運動が起こると」、「自動的に足が出続ける」、というもの。

スマホを見たり、会話に夢中になりながらでも歩き続けられるのはこれが大きく作用している。

これは、あくまで歩いていればそこからは自動で足が出ますよ、というものなので、最初の一歩目や、方向転換など、随意的な司令が必要な動きには応用がきかない。また、あまりゆっくりの歩行だったり、リズムがバラバラだとCPGは中断され、発揮されにくい。

 

論文レベルだと、猫の死体を吊り下げてベルトコンベアの上に乗せてみたら歩けた、という趣味は悪いが現在の歩行介助の基礎となるものや、上位脊髄損傷患者への免荷式トレッドミルでの歩行、などの数多くのエビデンスからこれははっきりその存在が証明されている。

 

翻って、脳卒中片麻痺が重度な方がなぜ歩けないか。これを考えてみると、純粋な片麻痺が原因となるものは、膝折れ、体が倒れてしまう、足が引っかかる、足が出せないの4つに集約される。

セラピストとしては、体が倒れてしまうなら支えればいい。足が引っかかる、足が出せないなら引っかからないようにこちらの手で出してあげればいい。

しかし、これらを行いながら膝折れまで支えるのは難しい。そこで、長下肢装具で膝支えればいい、という考え方が出てくるわけだ。

 

膝は長下肢装具でロックし、ついでに足首もグネグネ曲がらないよう装具の中に入れておき、後方からセラピストが片手で患者への体を起こしておく。

非麻痺側下肢を患者さんが振り出す間、セラピストが麻痺側の股関節と体幹が倒れないよう支え、股関節を伸展方向に押して前進をサポートする。

 

この状態で、もう片手で長下肢装具の股関節の部分を持って振り出しを介助すると、股関節か、足部までが一体となった装具を着けているため、患者さんの麻痺側下肢の振り出しを介助できる。

 

この繰り返しで、重度片麻痺の患者さんにも、歩行練習が行えるというわけだ。

これは、hebbの法則に照らしても、動かそうと思ったタイミングで動けているし、代償も防ぐよう工夫すれば防げるしで麻痺の回復に有効と言える。

また、CPGの存在を考えても、歩きだしてリズムに乗れば、歩行様の下肢筋活動を誘発できる。そのため、麻痺して萎縮し易い麻痺側下肢筋群の強化も図れる。

更に、単純に立位で立脚側を左右に変えつつ前進する、ということから麻痺側、非麻痺側どちらもの動的立位バランスの向上が図れる。

加えて、歩行ということから全身的な心肺機能の改善まで図れてしまうという一石四鳥の最強運動療法だ。

 

ただ、実際に行おうとする際に、転倒リスクだったり、代償を起こしやすかったり、随意性が回復してきたのにロックしたまま歩かせて膝のコントロールを学習させられなかったりと失敗を経験するセラピストが多くいるのも事実だ。

 

実際の介助の際は、患者さんの状態に応じ手伝うポイント、手伝う量を調整し、その中で代償が起こらないよう工夫を重ねる必要がある。

この辺りの具体的な話は次回以降で書いていこうと思う。