ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法 〜2〜 健側機能の向上から図る早期ADL改善

前回の大腿骨近位部骨折のテーマで、手術自体と手術後の注意点を述べた。ここからは術後のリハビリについて書いていく。

 

術後のリハビリは活動性の確保と、患側機能の向上の2つに分けられる。今回は活動性の確保について述べていく。

 

術後の廃用を防ぐための第一には、術後早期からの活動性の確保が挙げられる。

 

術後早期から活動性を確保するためには何をするとよいか。真っ先に思い浮かぶのは歩きたいところだが、ここはやはり痛みの問題や転倒リスクの問題があるため簡単にはいかない。

 

寝起きを自立させる?これも、股関節の問題と言う事を考えると、上体の寝起きに股関節の屈曲・伸展、足の上げ下ろしに内外転と痛みを生じやすい動きを多く含むため、少し時間をかけて行う必要があると私は思う。

 

では何から行っていくか。私は車椅子駆動と起立練習から始めるべきではないかと考えている。

 

やはり痛みを出さずに活動性を高められるものから始めるのが患者さんの受け入れもよく続くのではないだろうか。

 

手術後早期から、痛いと言っているのに我慢だ、とか言われながら運動をやらせてくる人を信頼してくれるだろうか。リハビリが進んできたらより細かな運動を行うが、その上で、セラピストと患者さんの信頼関係がないと頭打ちになるのが早くなると思う。

 

と、言う事で、術後早期は、起居や移乗は介助で行い、起立練習や車椅子でトイレなどへ移動する練習から行うことを推奨する。

 

起立練習といっても、手術した側(患側)に体重を乗せてしまっては痛いし、痛みを避けるための腰が引けて、体が側屈するなどの不良姿勢につながりやすい。

 

また、低い座面から立ったり、何にもつかまらせずに立たせたり、難しい課題を行うと、勢いをつけて立ってしまい危なかったり、結局患側を使用して痛くしてしまったりするリスクが高い。

 

最初は高い座面から、ピックアップ歩行器などしっかりしたもの(支持物)につかまってもらって、いい方の足(健側)を中心とした起立練習を10回でも20回でも30回でも行なって行った方がいい。いきなり20回30回は難しいので、病室で10回、リハビリ室に着いて10回、プラットフォームの上の練習の後に10回、終了前に10回など小分けにしていくとよりよい。PT、OTと2職種入っている場合、午前、午後とそれぞれでやっていき、一日100回を目指すのもよい。

 

大腿骨近位部骨折の予後予想には、術後の健側起立の可否が影響するとのデータもあるため、早期から起立練習を100回でも行えると予後も良くなっていくと言えるのではないか。

 

 

 

ただ、ここで気をつけたいのが、支持物につかまる際のつかまり方だ。

 

平行棒など、支持物につかまる際、引き込む様に使用してはいけない。

 

何故なら、杖や歩行器などの歩行補助具は引き込んで使用できるものは存在しないため、歩行の獲得に繋げにくい。また、引き込み様の立ち上がりを覚えてしまうと、立った直後に後方へ尻餅をつくように転びやすくなる。

 

これを避けるためには、歩行器や椅子の背などを持ってもらった際に、支持物の前の足が持ち上がらないよう、下に押し込みながら使ってもらう様に指導すると良い。

 

 

 

これと並行して、起き上がり動作、移乗動作を練習していくわけだが、これらも、やはり痛みを出しにくい方法をまず獲得させていきたい。

 

 

 

起き上がり動作は長座位経由と側臥位経由とがある。最初は長座位経由が、指導しやすく、患者さんも痛みをコントロールしながら行えるためオススメだ。

 

患者さんがよく躓くポイントとしては、頭部は挙上できるが、肩甲帯や胸郭が挙上できない、長座位姿勢で骨盤の前後傾の調整に股関節痛を生じる、という2点だ。

 

1点目に関しては、プラットフォームなどでセラピストが適度に後方から介助しつつ、肩甲帯を挙上させつつ健側の肘でベッドを押す練習を反復するという方法で対処する。

 

長座位になるとは言っても、真っ直ぐ起き上がるのではなく、健側の肩甲帯を先行させ、患側方向にやや腹部の回旋を交えつつ起き上がっていくようにする。こうすると、患側股関節の屈曲が浅い角度に留まるため、疼痛を惹起し難い。

 

また、このポジションで着いていた肘を伸展させて、手で健側後方に持たれていれば、2点目の骨盤の前後傾も調整しやすく、安定した半長座位で足を降ろす動作へ移行できる。

 

患者さんがどこを苦手としているかをよく観察し、苦手な部分を手伝いながら徐々に自立へ導いていく。

 

この部分練習と全体練習の考え方は、動作を学習する手順としてオーソドックスだが、起き上がりに関しても当てはまる。

 

 

 

起立と並行して、移乗も痛みなく行う練習をしていく。

 

移乗って、起立して、片脚に体重を乗せて、反対の足をステップして、体の向きを変えてから座るという工程を踏むイメージがあると思う。

 

これだと患側の動きが出てくるが、例えば、片脚がなくても移乗ができることをご存知だろうか。

 

手と片脚だけで、お尻を浮かせて、そのままお尻の向きを変えて、座るということは可能だ。

 

 

 

非荷重の患者さんの移乗をイメージして練習していき、徐々に患側を使用できるようになったらステップをしていくように方法を変える、という考え方であれば早期から自立を目指して関わっていける。

 

 

 

こうして、寝起き、起立、移乗、車椅子駆動ができると、最低限自分でトイレや売店に行けるので活動性が下がりにくくなる。看護師さんをはじめとする他職種も介助に負担が少ないため余裕を持った対応がしやすくなり、入院生活のストレスが少なくなるだろう。

 

ここから、患側機能の向上について述べていくが、それはまた次回に分割する。是非次回も読んでいただきたい。