ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法について~4~ 筋間の滑走障害・インピンジによる鼠径部痛

今回も、前回同様、患側機能の向上の話。

 

痛みや筋出力低下で、可動域の低下を来して姿勢変換が困難となることについて。

よくある屈曲の可動域制限の改善方法についての話の続きである。

今回は、骨頭周辺の筋肉の癒着や挟み込みの問題について。

これは、股関節疾患で鼠径部痛を有する患者さんも同じことが当てはまるケースも多い。

 

股関節屈曲時に、鼠径部痛を訴える要因として、腸腰筋、大腿直筋、小殿筋の3つの筋肉が滑りが悪いこと(滑走障害)が臨床上よくある。

腸腰筋と大腿直筋は、大腿骨頭と臼蓋のちょうど前方を走行する。どちらの筋肉も、痛みや悪い姿勢などのせいでガチガチに固まっていると、股関節屈曲運動の際に収縮が遅れて逃げそこない、骨頭と臼蓋の間に挟み込まれて鼠径部痛を引き起こす。鼠蹊部のやや内側の痛みとして訴えやすく、創部から大きく離れた謎の痛みの一つだ。

どちらの筋肉においても、筋肉「全体」が硬いことというよりも、「大腿骨頭と臼蓋の付近を走行する部分」が硬くなっていることがこの問題を引き起こす。

これをどうするかというと、直接そこを揉む、という方法でやわらかくしてもよいが、

痛みが出る角度の手前まで持っていき、痛い部分を軽く圧迫して、痛みが出る角度まで自力で動かす、という自動運動を反復する、という方法が割と効率的に痛みをとって可動域を上げられるように思う。

これは、腸腰筋であればSLR、大腿直筋であれば膝の軽度屈曲-完全伸展を痛みが出る角度付近で繰り返し、その筋肉に自動収縮による血液循環を促す。それと同時に痛みが出ている鼠蹊部も圧迫し圧刺激で痛み刺激を紛らわせつつ滑りも良くできる、という一石三鳥の方法だ。

 

小殿筋は、先ほどの腸腰筋、大腿直筋ほど直接的にわかりやすく挟み込まれるイメージが持ちにくいと思う。そもそも、大殿筋、中殿筋と比べ聞き慣れないと思う。大殿筋はお尻の真後ろにある大きく上下に走っている筋肉だ。中殿筋は大殿筋の外側を上下に走る中程度の筋肉だ。小殿筋は、中殿筋のさらに外側を上下に走る筋肉だ。大殿筋は後方にあるため股関節伸展に作用し、中殿筋は外側にあるため伸展位での外転に作用する。小殿筋はどうかというと、中殿筋と同じく、股関節の外側に存在し、外転に作用し、ほぼ中殿筋と同じ様な機能を有している。

しかし、中殿筋と小殿筋の決定的な違いは二つあり、一つは中殿筋が大腿骨の大転子後面につくのに対し、小殿筋は大転子前方に付着する。この大転子前方には、大腿直筋の一部も付着し、小殿筋と一体化してしまっている。その一体化した部分の下に、関節包という痛みを感知しやすい組織が存在する。このため、この小殿筋が硬くなるだけで関節包が圧迫され痛みを発する。鼠径部痛といっても表面から見るとやや外側面に痛みを発するのが特徴だ。

また、小殿筋は大転子を前外方から頸部ー骨頭方向に押し付ける走行をしており股関節の角度が変わっても、骨頭を求心位へ近づける作用を持つ。このため、小殿筋が動きにくくなると大腿骨頭が不安定となり、前外側、つまり鼠蹊部に痛みが出現する。鼠径部痛があり、外側面もパツパツに張っているという患者さんはこの小殿筋の硬さや付着部の滑走障害も疑っていいと思う。

小殿筋に対してはどうするか。大腿筋膜張筋や、中殿筋の奥にあるため、直接的に触れようと思うとボールや肘を使って少し強くの横断マッサージをする、というのが一つ。

また、先ほどの腸腰筋、大腿直筋同様、付着部を圧迫しつつ股関節外転の自動運動で血流を促進する、というのも一つだ。

しかし、根本的にはここが張る要因は中殿筋で外転できない場合に代償的に働いてくるため、中殿筋を鍛えていく、というのが根本治療には大切だと思われる。中殿筋を使った荷重位での筋トレはまた荷重の記事で説明したいのでここでは割愛する。

 

鼠径部痛の筋肉由来の痛みについて今回は解説した。前回の骨の動かし方を変えても残る鼠径部痛はこの筋の問題が大きく関係していることが多い。次回は、術創部自体の問題について書いていくので是非読んでほしい。