ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

脳卒中重度片麻痺への長下肢装具療法 その3 いかにロックを外すか

前回の記事で、膝をロックして、膝折れ防止をしたまま介助で患者さんに歩いていただく際のコツを書いた。

今回は、そこから如何にご自身で歩いていただけるようになってもらうか、ということにつなげる記事を書いていきたい。

 

平たく言うと、自分で足が降り出せて、膝のコントロールができて、転ばない、というところにつなげていくという話だ。

 

そのためには、杖につかまって倒れずに歩けるようになることが目標となる。

膝をロックした歩行では、膝のコントロール自体も学習できず、さらに、膝のコントロールに伴うバランス戦略が欠如しやすい。

また、足首が引っ掛かったり、蹴り出しが不足していたり、という問題が出てくることも多い。

今回は特に、膝のコントロールについての対処を書いていきたい。

 

やはり最初に書いていくのはいつ、膝のロックを外して歩き出すのか、ということだろう。

このイメージがないと、延々と膝をロックしたままの歩行練習を続けてしまったり、逆に、ある時いきなり膝ロックを外して歩かせ始めてしまって、膝の代償がバリバリに出た歩行を獲得させてしまい、何のためにこれまで装具歩行をやっていたかわからないような結末に終わるパターンをしばしば目にする。

 

文献的にも「いつから」ロックを外す、ということは明確に書いていないが、脳卒中理学療法理論と技術には膝ロックの解除とカットダウンについて書かれたページが1ページだけ存在する。

 

”適宜、膝継ぎ手のロックをはずしたり、短下肢装具にカットダウンする必要がある。麻痺側膝で多少でも筋活動を得ることができれば、ロックを外した立位で支持性を確認する。膝をロックした歩行で筋活動を賦活した後、できれば数歩でもロックを外して歩いて、麻痺側の支持状況を確認する。最初の数歩は膝を伸展保持することができなくても、繰り返すことでかろうじてできるようになることがある。”(p338)

 

つまり、ロックをしたままの歩行しかしない、ということは自身の膝での体重支持を経験する機会を与えないことを意味する。

このため、練習レベルでは、患者さんがロックした歩行に多少なりとも参加できる様になったら、早期から行うべきだと言えるのではないか。

早期とは言っても、体幹の支持も、下肢の両側ともの振り出しも全介助の状態から膝ロックを外す、というのは課題でクリアすべきものが多すぎるため、難易度が高すぎると言えるだろう。

体幹の支持、もしくは麻痺側下肢の振り出しの介助量軽減(非麻痺側重心の巧緻性向上)のどちらかがある程度得られていないと、膝の課題にとりかかるのは早計だ。

一つの課題でメインターゲットとなる目標は一つがよく、多くても二つまでが限度だろう。また、二つの目標を同時に進める場合でも、主目的と、副次的な目標と優先順位を分けておいたほうが良い。

体幹のある程度の伸展位保持や、麻痺側の振り出しこそ最初のメインターゲットとし、多少進んできたら膝の課題も取り入れていく。そして、体幹の支持や麻痺側の振り出しが当たり前にできるころには、それまで取り組んでいた膝の課題に専念できる、というわけだ。こうすれば、急に膝のロックを外すわけでない。

具体的には、介助でリズムよく歩く練習がコンスタントにできていたり、手すりにつかまってバランスとりつつ振り出す練習が行える、くらいになってきたらロックを外す経験を始めるのが良いと私は考えている。

 

さて、膝のロックを外すタイミングの話を書き連ねてきたが、ここからはどうやって膝のロックを外すか、ということに論点を移したい。

ここからは、①ロックをした状態での歩行を妨げない程度の体幹の伸展位保持、②麻痺側の振り出しが可能な程度の非麻痺側重心での動的バランスの獲得、③麻痺側股関節近位筋の賦活による振り出しの獲得がある程度進んだ状態を想定する。

この①~③が足りない状態でロックを外す場合は膝は体験程度にとどめ、あくまで①~③の獲得を主目的としたほうがよい。

 

さて、ロックを外すと何が問題となるか。大きく分けて二つある。

一つ目は想像しやすいであろう。立脚中期の支持性の不足からくる膝折れや反張膝(バックニ―)の出現による歩容の乱れだ。

これがでてしまうとそれ自体が転倒や膝関節を痛めることにつながるのはもちろん、ロックをして歩いて賦活したCPGやバランス戦略なんかがほぼほぼ使えなくなってしまうので、これの克服がとても大切だ。

 

もう一つは、踵接地の際の膝伸展が破綻してしまうことだ。これは、歩行のための前方推進力の不足につながり、結局立脚中期以降を破綻させうる歩容異常につながる。

 

順を追って対策を記していこうと思う。

まず、立脚中期の膝折れと反張膝だ。これまで荷重してこなかった膝に急に体重が載るため、最初は折れ曲がってしまうのは当然だ。これをどうするかというと、やはりHebb則を念頭に置くべきだろう。

 

「代償を修正した動作を介助ででも行えた経験を繰り返すとその動作を獲得する」。

 

膝折れを介助ででも防ぎながら、体重を膝に乗せつつ、股・膝を伸展させ立脚初期-中期-終期、までを反復する。

膝・股・体幹すべてを介助しつつ、ステップ練習をするのだ。

 

つまり、前方でセラピストが自身の膝で患者さんの膝を膝折れしないように抑えつつ、セラピストの手を使って股関節と胸郭をそれぞれ前進させていく。

股関節の伸展が足りないと、体幹を前傾させて股関節を後ろに残したまま次の一歩に移り出してしまう。これが反張膝のメカニズムの一つだ。

胸郭レベルでの前進も引き出しておかないと、結局立脚終期で重心が後方に残り、次の非麻痺側の立脚が破綻し、さらに次の麻痺側の振り出しが困難となる。

 

また、ステップで前進してもらったあと、次のステップ練習に移るための後ろに戻ってもらう際の代償も気にしたほうがいいだろう。

戻るときは転倒しなければいい、というわけではなく、逆再生のステップ練習として利用でき、目的とする筋の遠心性収縮の練習もできるわけで、前進の完全な逆再生をする様に、膝・股・体幹を介助して戻すことを推奨する。

 

患者さんが慣れるまでは目線は下でもいいが、慣れてきたら目線は上げたほうが良い。

 

また、慣れてきたら介助の量を減らして破綻を経験してもらい、ご本人の運動意図をしっかりもたせる、という機会もちょこちょこ入れたほうがよいだろう。

そうしないとセラピストの介助に依存する。

 

膝・股・体幹それぞれで代償が出やすいため、膝の介助を外す回、股の介助を外す回、体幹の介助を外す回、と、それぞれ機会を与えて、都度、患者さんの弱点はどこなのかを探ったり、一つの機能を重点的に克服させたりと、工夫すべきであろう。

 

例えば膝の介助を外して、膝俺をしてしまった場合、次の回ではまた介助をし、「このタイミングで伸ばす!」と声をかけ、また次の回で介助を緩める、といったように失敗⇒成功⇒挑戦、というように各課題の克服を目指すべきだろう。

 

膝の伸展はタイミングも大切で、膝の伸展が早すぎると、股関節の伸展がおこらずバックニーが起こる。逆に、遅すぎると、膝折れしてしまう。

正常膝の立脚の動きとして、立脚初期では一度ごく軽度屈曲してから伸展に転じる、といダブルニーアクションと呼ばれる機構がある。この、ごく軽度の屈曲、を起こさずに伸展してしまうと反張膝になってしまう。

意識としては、私は、体表で見た感じ、鼠径部が踵を超えるタイミングまでは屈曲を許容し、そこから伸展に転じさせるよう介助・指導を行っている。

 

また、前方からのステップ練習以外にも、長下肢装具の大腿半月や、太ももに巻いたタオルなどを後方から持って、立脚中期で重心を装具を腕力で持ち上げて膝の介助をすることもある。これは介助者の手がとても疲れるがそのまま歩行練習ができるというメリットがある。

ステップがうまくいくようになったら、膝ロックを外した歩行の全体練習を行う必要がある。その際の介助方法としても使える。

 

こうしてロックを外して立脚中期で膝伸展して重心を上昇させつつ支持するわけだが、最初はやはり麻痺側下肢というものどうしても出力が不足する。

それは麻痺により出力も低下しているし、それまでの廃用もある。

と、いうわけでいきなり独歩で全体重をかけるのではなく、手すりや杖を支持して体重を肩代わりしながら歩行のリズムを破綻させないことを優先すべきだろう。

 

次に、遊脚終期~立脚初期にかけて、踵接地では膝伸展している必要があるが、ここも練習しないと屈曲してしまうことが多い。

歩行練習やステップ練習どちらでもいいが、振り出しのステップを後方からセラピストの下肢で患者さんの足部を前方に軽く押して膝を伸展させておく練習を繰り返すといいだろう。これも、介助の量を増減させつつご自身でできるようにしていく。

これは、長下肢装具での歩行をしていない患者さんなどでも立脚初期から膝屈曲してしまっていて後方重心を呈する患者さんの歩容修正にも使える。

また、立脚初期は股関節外旋の代償が起こらないようにも気を付けたい。これは、なかなか難しいが、装具の足部の部分に弾性包帯などを結び、ぐるぐる巻きつけて、骨盤のところで股関節内旋方向にテンションが働くよう工夫すると対処が容易となる。

 

これらを進めて、杖と短下肢装具で非麻痺側の重心をおきつつの歩行をスムーズにできるのをここでの目標としていく。

非麻痺側に重心をおきつつの歩行と並行して、段差昇降やマシントレーニングなどで踏み込みの筋力の増強を図っていきつつ、徐々に出力向上に合わせて重心を麻痺側に移していくようにしていく。

この時の筋力向上の道具としてとてもお勧めなのが、市販のステッパーだ。ナイスデイ社のものなどを平行棒の中に入れて、支持ありで、かつ、踏み込みを介助しながら踏み込ませる経験を反復できる。もちろん、ステッパーでの踏み込みでも体幹、股関節の代償は許容しないほうがよい。

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また、短下肢装具からの脱却、という課題も残るわけだが、それについては文献も多くありそちらにとりあえず譲りたい。気が向けば次回の記事で書いていこうと思うが、短下肢装具からの脱却は個別の事例による差異が多く一般論的に語りにくい。おそらく次回は簡単にgait solutionデザインの短下肢装具の使い方について記載するにとどめる。

しかし、このgait solutionデザインの短下肢装具についても、とても便利な代物だが理屈を理解しないとその利点を活かせないため、ぜひ次回も読んでいただきたい。