ぐんまのぴっち

8年目理学療法士。3年目まで回復期、4年目以降ずっと総合病院急性期勤務。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法について~6〜 患側への荷重方法、歩行介助

長かったこの記事も、とうとう患側を使ってどう歩行を獲得していただくか、どう指導するか、いう話に入る。

 

大腿骨近位部骨折手術後の患者さんが歩けない理由は、おおむね患側に体重をかけられないことだろう。

中には前面の滑走障害から振り出しに痛みのある例もいるが、それは滑走操作をしつつ、痛いうちは股関節でなく、骨盤から挙上させればとりあえず振り出しはできる例が大半だ。

 

患側股関節に荷重した場合、痛みとともに股関節が屈曲、内転方向に崩れてしまい、健側を床から離せず、一歩目から進めないため歩行が成り立たないことが多い。

この崩れから来る破行への対処について、今回は記載していきたい。

これは、健側に荷重していれば股関節が軽度屈曲していようが、外転していようが、伸展していようがなんともない。

しかし、荷重して不安定になった股関節を筋活動を通じて支えようと思うと、後外側の筋や軟部組織が損傷しており、痛みもあり支えられず崩れてしまう、というわけだ。

 

ということは、後外側の筋や軟部組織の支持性をセラピストが補う様に支えてあげれば、それらは痛みを発さずに立位保持、歩行が可能になるのではないか。

 

臨床的に、前方か、側方か、後方か、どこからでもいいが、セラピストの手掌を開き、患者さんの腸骨稜、大転子、坐骨結節間をホールドして、そのまま前内側に手を押し付けておく。こうすると股関節の崩れを防止できることが多い。

注意点として、骨盤‐大腿骨頭間を安定化させたいがためにこの作業を行っているが、反対側から軽く抑えがないと患者さんの体を押してしまうことになるので反対側の上前腸骨棘付近に固定のため手を回しておいたほうがいいだろう。

要は後外側から骨頭を支える、というのは中殿筋の代わりをセラピストの手掌で行っているというわけだ。これは、市販の股関節サポーターなどでもある程度代用が効く患者さんの痛みに合わせサポートの強さを調整できる、という点が手掌のメリットだが、サポーターはご自身で装着可能、外的デバイスに頼れるため中殿筋のサポートをしたまま他へもアプローチ可能という点がサポーターのメリットだ。

話が逸れてしまったが、こうした方法で痛みが起こらず、崩れていない立位を経験してもらい、このまま少しずつセラピストの介助を緩めていく。もちろん崩れそうになったらすぐに介助を再会する。そうして自力で骨頭を後方から支えられるように、後方支持組織による股関節の安定を学習させていく。

徐々に静的立位だけでなく、健側の踵を上げてみたり、振り向き動作を行ってみたりと患側荷重をしたままさらにその中で重心を動かす、荷重を増やすなどの課題を取り入れ、動的なバランスや、片脚立位など荷重量を増やした状態でのバランスなども取れるようにしていく。

 

この場合の大きな問題として、後外側の支持機構がまだ破綻破綻しているため、骨頭の安定化以外に、骨盤の水平を保てずに結果として股関節が崩れてしまう、ということがある。

後外側支持機構の中心的役割をなす中殿筋は、以前の記事でも書いたが腸骨稜から大転子後方に付着する。つまり、骨盤を下からさらに下に引っ張っている。これがたるんでしまうと、骨盤は、運動学用語でいうところの挙上してしまい、反対側が下に落ち込んだ形となる。

これを制御するために中殿筋のトレーニングが必要となるが、中殿筋のトレーニングと聞いて、側臥位で行う大腿の外転をイメージする方もいるかもしれない。

しかし、これは腸骨稜側から大腿を引っ張るという形での起始→停止方向への収縮だ。もちろん筋腹へ負荷をかけて筋の総量を増加させる、という意味では有用かもしれないが、立位で骨盤を水平に保つという筋の使い方を練習する上ではあまり役に立たないと私は考える。

この場合に行うべきトレーニングは、5cm程度の段差に患側下肢を乗せて、股・膝の伸展に合わせて骨盤までしっかりと下制させていく練習だ。股・膝の伸展に関してはなんなら介助したっていい。大切なのは、患者さんに骨盤をしっかり下制させる感覚を掴ませることだ。

セラピストとしては股も膝も伸展したところで、そこから反対側の骨盤を挙上するよう口頭で指示してそれを手伝う。

反対側の骨盤が挙上したところで、今、患側の骨盤が下がってお尻に力が入っているのがわかりますか?とはっきり聞いてからそこを意識させるように練習する。

 

これを10回程度反復してから次に移る。歩行中に患側骨盤が下制する必要があるのは、立脚最後の蹴り出しまでずっと、だ。

蹴り出し直前ででも骨盤が挙上してしまうともうそのタイミングで跛行が起こる。

そのため、ただ股関節中間位で骨盤下制の練習を行うのみでなく、股関節伸展・蹴り出しに合わせて骨盤下制を行う練習も行うべきだろう。

レーニングとしては、先ほどの段差での伸展練習から派生させればよい。

まず、環境設定として、患側足元には5cm程度の台が入っている。健側足元の前方に5~10cm程度の台を用意する。

先ほどの練習で中間位であれば骨盤下制ができるようになっていることが確認できたら、そのまま患側骨盤を下制させたまま、前の台に健側を乗せてもらう。これだけで患側股関節が伸展しながら骨盤を下制捺せ続けるという練習ができる。

さらに、反復のために足を下ろす際も骨盤下制を維持するようにすれば、遠心性収縮の練習にもなるためオススメだ。

注意点として、股関節伸展すべきタイミングで骨盤が後退し、バックニー気味に健側の股関節屈曲で代償する方がいる。股関節伸展もしっかり意識させる必要がある。難しければ、最初はそこも含めて介助してしまってもいいだろう。

また、膝折れからの転倒など起こしてしまってはもう最悪だ。ピックアップ式の歩行器や平行棒の中か、前方からセラピストが膝などでしっかりと膝折れを予防した環境で行うことを推奨する。

 

このステップを介助なしでできるようになれば、今度は段差をなくした状態でできるか確認し、歩行へ繋げていく。

段差を置いたのは課題を患者さんにとって分かりやすくする、という意味で難易度を下げている。

平地をステップする方が段差をステップするより楽と考えるかもしれないが、平地のステップというのは動作方略が数多くあり、どこに意識すればいいかわかりにくい。

先に段差を使ってわかりやすい課題で練習してから平地の練習をするほうが体感的には患者さんの理解を得やすい。

 

まずは平行棒、歩行器で歩行していただき、同時にこの練習を片手支持、手放しと進めていき、杖や独歩を獲得していく、という寸法だ。

 

もちろんほかにもバランス不良や痛みが出ることもあるだろう。

その辺の課題はFBSやTUGなどの検査バッテリーを使い、適宜評価して潰していく必要がある。かただ、このトレンデレンブルグと伸展不足以外の課題、というのは、大方膝や腰部などの隣接関節の問題が多いのではないかと思う。

ここらへんの課題への対処をしつつ、しゃがみ込みなどを獲得できればもうすっかりご自宅でも生活できるように思う。

しゃがみ込みに関しては、前までの屈曲可動域に加え、しゃがんだ状態での下肢筋出力向上が必要なため、課題得意的な練習が必要だろう。

 

今回のテーマに関しては、このくらいで筆を置こうと思う。長いこのテーマを読んでいただき、感謝の念は尽きない。

是非他の記事も読んでみてほしい。

コロナに罹患しました

こないだ親族に会ってから、翌日関節痛、発熱。職場を早退し調べたら抗原陽性。今週しばらく高熱と倦怠感に苦しめられています。

 

ここまでコロナに罹ったことなくきていて、なんとなく自分はかからないんじゃないかと思っていたがそれがいかに思い込みだったか、思い知った。

 

ようやく体調が回復していたので記事を書こうと思ったが、まあ書けない書けない。

とにかくまずはこういう記事でも書いていって慣らすところからかな。

 

隔離期間もまだあるし、ゆっくりやっていきます

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法について~5~ 表層の屈曲制限への対処

今回は、患側股関節可動域制限についての最後になる。これは最も分かりやすい制限だと思われる。手術で切った傷自体が痛いから動かない、というもの。

 

奥の筋肉に関しては組織の修復を待ちつつ他のリハビリを行うが、表面の皮膚や、皮膚の下(皮下)の筋膜自体が硬い、という問題に対してのアプローチも必要、という観点を今回は説明していきたい。

 

最初の腫れが酷い場合、炎症を抑えるため何をするか、といったらアイシングを思いうかべるだろう。あまり熱感があり、触れるだけで痛みが強い場合、痛みの閾値を下げないと組織への徒手的アプローチどころではない。

熱を持ち、感覚が過敏となっているところが、さらに腫れていて表面積まで大きくなっていては、患部外を動かしても連動したわずかな動きで痛みを拾いかねない。

そうなると、防御的に動作への抵抗をするように体を固めてしまい、可動域制限の改善を図るはずがより可動域を狭める結果を生む。

そのため、まずはアイシングにて過敏な感覚をやや鈍麻させる、というのは理にかなっている。

 

しかし、それ以外にも大切なことがあると私は考える。

それは、創や腫脹部位の周辺まで不動により伸張性が低下してしまうのを防ぐことだ。創自体を離開や伸張させないように、創の方向に徒手的に圧縮・短縮させる方向に抑えたまま、痛みのない範囲で上下左右斜めに動かす。

これを行っておかないと、創周囲の炎症が収まってきても周辺の幅広い部位まで硬く短くなってしまうため、柔軟性を高めなくてはならない範囲が増える。

創自体も硬いのに、更に周辺まで硬いと関節運動の際にそこだけに負荷が集中し、痛みが出てしまい制限因子になってしまう、というわけだ。

 

また、創自体も熱感が収まり、触れても痛みがなくなっていれば可及的速やかにつまんで動かすなどの硬化予防が必要だ。もちろん創自体が開く可能性のある2週間程度は離開方向は避けつつだが、それ以上が経過した場合は創皮膚があらゆる方向に動ける用介入しよう、という考えで当たらなくては後遺症が残りやすいと思われる。

 

具体的な伸張の強さや何秒、何回行うかということを新人の頃の自分は知りたかったが、経験を重ねるうちにはっきり決めるものでもないことがわかった。

どういうことかというと、強さはその人の皮膚の状態により異なるため、痛みが生じない範囲で強く行う。ただ、表層の組織を動かすため、圧自体は深層の筋肉のマッサージよりは弱く、ページをめくる程度に弱く、摩擦だけはしっかり保ち皮膚が逃げない程度にはしっかり行う、といったところだ。

秒数はそこまで長時間行わない。回数は何回でもいいのだが、まず、介入時間が限られているためその中の何分は充てよう、というのを先にある程度決めた中で行うべきだろう。また、私は10回程度行ったところで、そこの張り感が和らぐようなら、それは効いている可能性があるので、患者さんに感じを聞きつつ続けるが、変わらないようなら10回でやめる、といったように即時効果がどの程度出るかを評価しつつ回数を決めていく様にしている。

 

前回、前々回といくつかの組織が原因の可動域制限の改善方法を紹介してきたが、どれを行うか、ということに関しても同じだ。上から順にやってみて、効果のあったものを続ける。徐々に改善して効果がなくなってくるので、また上から順に行って確認し改善させる、といった形で手技を選択していく。

結局、改善させることが一番の評価になるのだ。

 

話が逸れたが今回で可動域制限についての話を一旦区切りにしようと思う。他にも患者さんにより可動域の制限因子はあるが、疾患によらず、股関節の組織学、力学を学び、引き出しを増やしていくことが上達の一番の近道だと思う。今回の記事がその引き出しになれば幸いだ。

 

次回は、荷重時の疼痛、破行への対処の話をしていこうと思う。是非読んでいただきたい。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法について~4~ 筋間の滑走障害・インピンジによる鼠径部痛

今回も、前回同様、患側機能の向上の話。

 

痛みや筋出力低下で、可動域の低下を来して姿勢変換が困難となることについて。

よくある屈曲の可動域制限の改善方法についての話の続きである。

今回は、骨頭周辺の筋肉の癒着や挟み込みの問題について。

これは、股関節疾患で鼠径部痛を有する患者さんも同じことが当てはまるケースも多い。

 

股関節屈曲時に、鼠径部痛を訴える要因として、腸腰筋、大腿直筋、小殿筋の3つの筋肉が滑りが悪いこと(滑走障害)が臨床上よくある。

腸腰筋と大腿直筋は、大腿骨頭と臼蓋のちょうど前方を走行する。どちらの筋肉も、痛みや悪い姿勢などのせいでガチガチに固まっていると、股関節屈曲運動の際に収縮が遅れて逃げそこない、骨頭と臼蓋の間に挟み込まれて鼠径部痛を引き起こす。鼠蹊部のやや内側の痛みとして訴えやすく、創部から大きく離れた謎の痛みの一つだ。

どちらの筋肉においても、筋肉「全体」が硬いことというよりも、「大腿骨頭と臼蓋の付近を走行する部分」が硬くなっていることがこの問題を引き起こす。

これをどうするかというと、直接そこを揉む、という方法でやわらかくしてもよいが、

痛みが出る角度の手前まで持っていき、痛い部分を軽く圧迫して、痛みが出る角度まで自力で動かす、という自動運動を反復する、という方法が割と効率的に痛みをとって可動域を上げられるように思う。

これは、腸腰筋であればSLR、大腿直筋であれば膝の軽度屈曲-完全伸展を痛みが出る角度付近で繰り返し、その筋肉に自動収縮による血液循環を促す。それと同時に痛みが出ている鼠蹊部も圧迫し圧刺激で痛み刺激を紛らわせつつ滑りも良くできる、という一石三鳥の方法だ。

 

小殿筋は、先ほどの腸腰筋、大腿直筋ほど直接的にわかりやすく挟み込まれるイメージが持ちにくいと思う。そもそも、大殿筋、中殿筋と比べ聞き慣れないと思う。大殿筋はお尻の真後ろにある大きく上下に走っている筋肉だ。中殿筋は大殿筋の外側を上下に走る中程度の筋肉だ。小殿筋は、中殿筋のさらに外側を上下に走る筋肉だ。大殿筋は後方にあるため股関節伸展に作用し、中殿筋は外側にあるため伸展位での外転に作用する。小殿筋はどうかというと、中殿筋と同じく、股関節の外側に存在し、外転に作用し、ほぼ中殿筋と同じ様な機能を有している。

しかし、中殿筋と小殿筋の決定的な違いは二つあり、一つは中殿筋が大腿骨の大転子後面につくのに対し、小殿筋は大転子前方に付着する。この大転子前方には、大腿直筋の一部も付着し、小殿筋と一体化してしまっている。その一体化した部分の下に、関節包という痛みを感知しやすい組織が存在する。このため、この小殿筋が硬くなるだけで関節包が圧迫され痛みを発する。鼠径部痛といっても表面から見るとやや外側面に痛みを発するのが特徴だ。

また、小殿筋は大転子を前外方から頸部ー骨頭方向に押し付ける走行をしており股関節の角度が変わっても、骨頭を求心位へ近づける作用を持つ。このため、小殿筋が動きにくくなると大腿骨頭が不安定となり、前外側、つまり鼠蹊部に痛みが出現する。鼠径部痛があり、外側面もパツパツに張っているという患者さんはこの小殿筋の硬さや付着部の滑走障害も疑っていいと思う。

小殿筋に対してはどうするか。大腿筋膜張筋や、中殿筋の奥にあるため、直接的に触れようと思うとボールや肘を使って少し強くの横断マッサージをする、というのが一つ。

また、先ほどの腸腰筋、大腿直筋同様、付着部を圧迫しつつ股関節外転の自動運動で血流を促進する、というのも一つだ。

しかし、根本的にはここが張る要因は中殿筋で外転できない場合に代償的に働いてくるため、中殿筋を鍛えていく、というのが根本治療には大切だと思われる。中殿筋を使った荷重位での筋トレはまた荷重の記事で説明したいのでここでは割愛する。

 

鼠径部痛の筋肉由来の痛みについて今回は解説した。前回の骨の動かし方を変えても残る鼠径部痛はこの筋の問題が大きく関係していることが多い。次回は、術創部自体の問題について書いていくので是非読んでほしい。

 

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法について 〜3〜 骨の動きから見た屈曲制限

ここからは、患側機能の向上の話に移る。

 

患側股関節の機能低下で主な問題となるのは、以下の2点だろう。

1点目は、痛みや筋出力低下で、可動域の低下を来して姿勢変換が困難となること。

2点目は同様の理由で、立位をはじめとした荷重困難、支持性が低下してしまうことだろう。

 

可動域の低下に関してから話を始める。

 

日常生活において、股関節では、屈曲、伸展、外旋、軽度の内転の可動域が寝起き、しゃがみこみ、歩行には必要になる。

 

手術後早期において、どの方向の可動域から改善させるか、という優先順位だが、私はまず屈曲が一番大切だと思う。

 

もちろん全ての方向に対し、可動域練習は行う必要があるが、屈曲は徒手的に即時効果を出しやすく、わかりやすく生活動作の介助量の軽減に繋がる。

 

ここでは、よくある屈曲の可動域制限の改善方法について述べていく。

ここで述べたい可動域の制限因子は大きく分けて3つある。

1つ目は、股関節の骨のレベルでの動き方の問題。

 

2つ目は骨頭周辺の筋肉の癒着や挟み込みの深層の問題。

 

3つ目は手術の傷(創)の皮膚やその下の筋膜が硬かったり、癒着していたり、という表層の問題。

 

今回は、1つ目の骨のレベルでの動き方の問題を説明する。骨のレベルで説明したいことは二つ。一つ目は骨盤の可動性の話。二つ目は大腿骨には頸部があるため、見かけ上の屈曲と頸部軸に合わせた屈曲は異なる、という話だ。

 

骨盤の可動性の話から。股関節屈曲は、80度程度以上は骨盤の後傾、腰椎の屈曲との複合動作となる。大腿後面のハムストリングスや大殿筋、骨盤-胸郭間を後面で走る腰方形筋や脊柱起立筋、広背筋等の過緊張があると骨盤が後傾できずに大腿骨の動きとして限界を迎える。

ではどうするか。一つ一つ筋をストレッチしてみるだけでは過緊張は改善しないことが多い。それぞれの筋肉を横断マッサージや把持して左右へスライドさせる、などして筋を弛ませる操作をすると骨盤の可動性が高まり、結果として股関節屈曲の可動域が広がることがある。腰背部、殿部、仙腸関節の境目、大腿後面などを一つ一つほぐしていく感じだ。

また、動かし方として、骨盤の後傾は両側の股関節を屈曲した場合、片側のみのときと比べ容易に後傾しやすくなる。これは、骨盤が左右で連結していることを考えればイメージしやすいだろう。股関節屈曲が90度付近で疼痛のため止まってしまっている場合、一度試しに両側同時に屈曲させてみる、というのも一つの評価手段として有用と私は考えている。骨盤の可動性の問題の場合、両側同時に屈曲させて、可動域が増大したところで、ゆっくり健側をまた屈曲0度に戻しても患側股関節屈曲の可動域は増大したままであろう。

 

また、大腿骨の頸部によって、体表からみた大腿の動きと、実際の骨のレベルで見た大腿骨の動きにはわずかに差異があることも理解すべきだろう。

大腿の中心にある大腿骨の骨幹部の動きはおおむね体表からみた大腿の動きと一致する。しかし、骨頭の動きは、頸部が大腿骨転子部に対して前かつ内方へ伸びているため、見た目より内側かつ前方を動いている。

もし、体表の大腿を見たまままっすぐ屈曲させると骨頭は60度付近で臼蓋と触れ合い抵抗が生じる。健常者であれば、そのまま押し込んでいっても特に疼痛はないが、手術後で多くの筋や軟部組織に炎症が生じている患者さんであれば、この抵抗で後方や外側の組織へ負担が伝わり疼痛を惹起することもある。

体表に対しまっすぐ屈曲するのでなく、最初は大腿骨の頸部軸に合わせた方向へ屈曲すると、この抵抗がなくより深い角度まで屈曲できる。

頚部軸に沿った屈曲とは股関節を軽度外転・外旋させた状態での屈曲だ。徒手的には、慣れるまでは大転子下端と大腿骨頭を前方から把持するように触れながら屈曲すると、頸部軸がイメージしやすい。

 

今回は、股関節屈曲可動域制限について、骨のレベルでの動き方の問題とその対処方法について説明した。次回は、骨頭周辺の筋肉の癒着や挟み込みの問題による屈曲可動域制限や鼠径部痛の原因とその対処を説明していきたい。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法 〜2〜 健側機能の向上から図る早期ADL改善

前回の大腿骨近位部骨折のテーマで、手術自体と手術後の注意点を述べた。ここからは術後のリハビリについて書いていく。

 

術後のリハビリは活動性の確保と、患側機能の向上の2つに分けられる。今回は活動性の確保について述べていく。

 

術後の廃用を防ぐための第一には、術後早期からの活動性の確保が挙げられる。

 

術後早期から活動性を確保するためには何をするとよいか。真っ先に思い浮かぶのは歩きたいところだが、ここはやはり痛みの問題や転倒リスクの問題があるため簡単にはいかない。

 

寝起きを自立させる?これも、股関節の問題と言う事を考えると、上体の寝起きに股関節の屈曲・伸展、足の上げ下ろしに内外転と痛みを生じやすい動きを多く含むため、少し時間をかけて行う必要があると私は思う。

 

では何から行っていくか。私は車椅子駆動と起立練習から始めるべきではないかと考えている。

 

やはり痛みを出さずに活動性を高められるものから始めるのが患者さんの受け入れもよく続くのではないだろうか。

 

手術後早期から、痛いと言っているのに我慢だ、とか言われながら運動をやらせてくる人を信頼してくれるだろうか。リハビリが進んできたらより細かな運動を行うが、その上で、セラピストと患者さんの信頼関係がないと頭打ちになるのが早くなると思う。

 

と、言う事で、術後早期は、起居や移乗は介助で行い、起立練習や車椅子でトイレなどへ移動する練習から行うことを推奨する。

 

起立練習といっても、手術した側(患側)に体重を乗せてしまっては痛いし、痛みを避けるための腰が引けて、体が側屈するなどの不良姿勢につながりやすい。

 

また、低い座面から立ったり、何にもつかまらせずに立たせたり、難しい課題を行うと、勢いをつけて立ってしまい危なかったり、結局患側を使用して痛くしてしまったりするリスクが高い。

 

最初は高い座面から、ピックアップ歩行器などしっかりしたもの(支持物)につかまってもらって、いい方の足(健側)を中心とした起立練習を10回でも20回でも30回でも行なって行った方がいい。いきなり20回30回は難しいので、病室で10回、リハビリ室に着いて10回、プラットフォームの上の練習の後に10回、終了前に10回など小分けにしていくとよりよい。PT、OTと2職種入っている場合、午前、午後とそれぞれでやっていき、一日100回を目指すのもよい。

 

大腿骨近位部骨折の予後予想には、術後の健側起立の可否が影響するとのデータもあるため、早期から起立練習を100回でも行えると予後も良くなっていくと言えるのではないか。

 

 

 

ただ、ここで気をつけたいのが、支持物につかまる際のつかまり方だ。

 

平行棒など、支持物につかまる際、引き込む様に使用してはいけない。

 

何故なら、杖や歩行器などの歩行補助具は引き込んで使用できるものは存在しないため、歩行の獲得に繋げにくい。また、引き込み様の立ち上がりを覚えてしまうと、立った直後に後方へ尻餅をつくように転びやすくなる。

 

これを避けるためには、歩行器や椅子の背などを持ってもらった際に、支持物の前の足が持ち上がらないよう、下に押し込みながら使ってもらう様に指導すると良い。

 

 

 

これと並行して、起き上がり動作、移乗動作を練習していくわけだが、これらも、やはり痛みを出しにくい方法をまず獲得させていきたい。

 

 

 

起き上がり動作は長座位経由と側臥位経由とがある。最初は長座位経由が、指導しやすく、患者さんも痛みをコントロールしながら行えるためオススメだ。

 

患者さんがよく躓くポイントとしては、頭部は挙上できるが、肩甲帯や胸郭が挙上できない、長座位姿勢で骨盤の前後傾の調整に股関節痛を生じる、という2点だ。

 

1点目に関しては、プラットフォームなどでセラピストが適度に後方から介助しつつ、肩甲帯を挙上させつつ健側の肘でベッドを押す練習を反復するという方法で対処する。

 

長座位になるとは言っても、真っ直ぐ起き上がるのではなく、健側の肩甲帯を先行させ、患側方向にやや腹部の回旋を交えつつ起き上がっていくようにする。こうすると、患側股関節の屈曲が浅い角度に留まるため、疼痛を惹起し難い。

 

また、このポジションで着いていた肘を伸展させて、手で健側後方に持たれていれば、2点目の骨盤の前後傾も調整しやすく、安定した半長座位で足を降ろす動作へ移行できる。

 

患者さんがどこを苦手としているかをよく観察し、苦手な部分を手伝いながら徐々に自立へ導いていく。

 

この部分練習と全体練習の考え方は、動作を学習する手順としてオーソドックスだが、起き上がりに関しても当てはまる。

 

 

 

起立と並行して、移乗も痛みなく行う練習をしていく。

 

移乗って、起立して、片脚に体重を乗せて、反対の足をステップして、体の向きを変えてから座るという工程を踏むイメージがあると思う。

 

これだと患側の動きが出てくるが、例えば、片脚がなくても移乗ができることをご存知だろうか。

 

手と片脚だけで、お尻を浮かせて、そのままお尻の向きを変えて、座るということは可能だ。

 

 

 

非荷重の患者さんの移乗をイメージして練習していき、徐々に患側を使用できるようになったらステップをしていくように方法を変える、という考え方であれば早期から自立を目指して関わっていける。

 

 

 

こうして、寝起き、起立、移乗、車椅子駆動ができると、最低限自分でトイレや売店に行けるので活動性が下がりにくくなる。看護師さんをはじめとする他職種も介助に負担が少ないため余裕を持った対応がしやすくなり、入院生活のストレスが少なくなるだろう。

 

ここから、患側機能の向上について述べていくが、それはまた次回に分割する。是非次回も読んでいただきたい。

大腿骨近位部骨折術後の急性期理学療法 〜1〜 病態、手術について

理学療法士が実習や新卒でオーソドックスな疾患として担当することの多い大腿骨近位部骨折の手術後の患者さん。

 

養成校では解剖や運動学などを学び、疾患については整形外科、神経内科など科毎に総論を学ぶのみで各論は実習地の教育や自己研鑽に任せられているのが現状だと思う。

 

このブログでは各論的に本当に基本的なことと思われる私の意見を書いていきたい。今回は大腿骨近位部骨折の手術後急性期、なにから始めるかについて。

 

まず、そもそも90代など超高齢とされる方であっても、大腿骨頸部や転子部の骨折で適応であれば医療機関では手術を推奨する。しかし、超高齢の方には足首や肩などの関節や骨盤では、手術の身体負荷や手術後の不活動などを理由に保存療法を奨めることもある。これを考えると、なぜ超高齢であろうと手術を検討するのだろうか?

 

これは、大腿骨を保存とすると、どんなに気をつけても骨片がどこかに飛んでいってしまう(転位)リスクが高く、転位してしまうといつまでも骨もくっつかない状態が続きやすいためと思われる。これを避けるためには股関節を動かさず、ほぼ寝たきりのまま大腿骨がくっつく(癒合する)12週間を過ごすことになる。

 

超高齢の方が12週間寝たままで過ごすと筋力低下もするし、心肺機能が低下し肺炎などのリスクもあがるし、なにより認知機能が低下し骨癒合してももう離床や日常生活を望めない状態となる可能性が高い。

 

そのため、超高齢でも大腿骨近位部骨折の場合、手術を行う。大腿骨近位部骨折に対する手術の方法は大きく分けて2つある。

一つは、もう骨折がひどすぎて、大腿骨頭に血液供給が望めないため骨頭から人工のものに変えてしまう、人工骨頭置換術。もう一つはピンや杭で折れた骨片と骨片を貫いて動かないよう固定する観血的整復固定術。

どちらを行っても、折れた骨片が股関節運動によって転位しない。さらに、固定術の場合は、荷重によって転位しないばかりか、骨片と骨片が触れ合い、骨癒合を促進してくれる。

これなら、骨折自体の悪化は心配せず動けるため、術後すぐから起こしていける、というわけだ。最近では骨折翌日には手術ができるわけで、寝たきり期間をほぼ作らずに、退院に向け動き出せる。これなら、保存療法よりはるかに、元の生活に戻れる可能性が高いということがイメージしやすいのではないか。歩行にせよ、車椅子にせよ、起きる必要はあるわけで、超高齢でも手術をした方がいい、というのはこうした観点から言われているというわけだ。

 

手術後に、早期から動ける、と言っても注意すべきことも多く、これに理学療法士は多く関わっていける。まずは、人工骨頭置換術の場合にイメージされるのが脱臼だ。

人工骨頭は前外則から骨頭を入れる場合と後外側から骨頭を入れる場合とある。術後早期は軟部組織が修復されていないため、どちらの方法にしても、入れた角度に骨頭が向いてしまうと、骨頭が飛び出てきてしまい脱臼する。3ヶ月程度は軟部組織が完全には修復されていないので入れた角度に骨頭が向く様な動きを控えなくてはいけない。

前外側アプローチであれば、後内側に大腿が行ってしまうと抜けてしまうため、伸展・内転・外旋の複合動作を避ける必要がある。後外側アプローチであれば、前内側に大腿が行ってしまうと抜ける。このため、屈曲・内転・内旋の複合動作を避ける。

ここまで読んで気がついたかもしれないが、とにかく術後早期は、内転方向には、あまり大腿を持って行かない方が安全だ。このため、股の間に枕を挟むなどの対応をしている病院も多い。

 

一方、観血的整復固定術においては脱臼こそないが、ピンや固定具が手術後より深く食い込んでしまうこと(cut out)や、手術後の位置から徐々に浅く抜け落ちてきてしまうこと(back out)など、固定具の位置異常の起こるリスクがある。

毎週レントゲンを撮る病院が多いと思われるため、こうした固定具の位置も気にして見ておくと良いかもしれない。

万一、位置異常に気がついたらすぐにドクターに相談すべきだろう。

 

また、術式に関わらず、転子部より遠位の小転子が骨折している場合も注意が必要だ。

小転子は荷重を受ける部位ではないため、大転子や頚部が固定もしくは置換される場合でも、保存的に対応される。

そのため、小転子に付着する腸腰筋の出力は骨癒合が進むまで控えた方がいいだろう。

腸腰筋を早期から収縮させすぎると、小転子が転位してしまい、腸腰筋の出力が困難となってしまうことがある。

小転子に骨折が及んだ場合も、早期からのSLRは控えたり、NSにも情報共有して股関節屈曲に関しては早期は介助対応とするなどの工夫も検討が必要かもしれない。

これも、ドクターと相談すべき内容だろう。

 

手術後の注意点を述べてきたが、術後の心身の廃用もそれに当てはまる。こここそ理学療法士をはじめとするリハビリの真価を発揮できるポイントだろう。

 

ここから、具体的なリハビリを述べていこうと思うが、長くなるため分割しようと思う。次回も是非読んでいただきたい。